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行政書士と刑法の基礎23

行政書士と刑法の基礎23(刑法の故意や具体的事実の錯誤)
 前述した「因果関係」は、客観的構成要件、「故意」は主観的構成要件と呼ばれている。当たり前のことではあるが、刑法による「故意」が認められなければ、次は「過失」を検討することになる。
 重要な刑法のポイントであるが、刑法では「故意」ないと罰せられないのが原則である。例外的に「過失」により罰せられることもある。
 さらに、「故意」は「錯誤」と切っても切れない関係にある。「故意」と錯誤は一体なのである。刑法では「故意」は客観的構成要件要素の事実の認識・認容されている。客観的構成要件とは結果・行為・因果関係のことである。問題は認容ということの意味であるが、これは一般的には「かもしれない。」「やむを得ない」ということである。
具体的に例示すると
 殺人罪であるが、包丁で相手を刺してしまった場合、ちょっとややこしい話にはなるが、相手を「殺そう」と殺意を持っていた
場合は、死という結果になることに認識があるので故意は認められる。
 問題は相手を殺そうとまでは思っていなくても,相手が「死ぬかもしれない」と思っていた場合はどうなるかである。ここで認容という言葉が重要になってくる。死に対して「死ぬかもしれない」と認容していた場合は、刑法上は故意があるということになるのである。
 刑法には「人を殺してはならない」という規範があり,それをわかっていながら,殺人を行ったら,刑法上はその殺人の行為に出ること自体の認識・認容で殺人の故意を認めるとしている。
 さて、「錯誤」であるが、錯誤=不一致ということで理解して
おくとよい。法律上の「錯誤」とは、わかりやすくいえば「そんな法律があることを知らなかった。」「法律違反になることを知らなかった。」ということである。
「そんな法律があることを知らなかった。」「法律違反になることを知らなかった。」と主張しても、殺人罪の故意があることに
なるのである。いわゆる「法律上の錯誤」である。
 つまり、「錯誤」には、事実の錯誤と法律上錯誤があるということである。我々一市民にとって、法律上の錯誤ということを理解している市民は少ないと私は思う。法は一般人を対象としたものなので,一般人レベルで違法の要素をどの程度認識すればよいかといういうことに帰結する。
 面倒なことには、「錯誤」には、さらに、具体的事実の錯誤というものもある。具体的事実の錯誤とは,認識事実と実現事実が、同一犯罪内で不一致ということである。
 面白いことには、具体的事実の錯誤の判断基準は構成要件的評価が一致する限度で故意を認めるということである。」いわゆる
「法定的符号説」である。
構成要件評価=犯罪であるが、要は、法定的符号説に立つと,具体的錯誤の場合は故意を認めるということになる。
 また、「因果関係の錯誤」も故意はあるとされている。
 具体的事例は
 溺死させるつもりで崖から突き落としたが,崖の下の岩にぶつかった衝撃により亡くなった。という事例であるが
 この場合,殺人の結果や行為に不一致はないが,因果関係に錯誤があるわけです。
 前述した法定的符号説で考えると,同一構成要件内で一致する限度で故意を認める=犯罪内で故意は認めることなるが、因果関係の錯誤の場合は同一犯罪内であるので,故意はあることになる。
 因果関係の錯誤で故意が否定されるときはないのか?疑問が生ずるが、回答はあるである。
 崖から落として溺死させようとしたが,崖が崩れて死亡した場
合であるが、この場合は故意は否定される。

2022/10/10