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行政書士と相続業務④ー2

行政書士と相続業務④ー2
遺産を分ける2つ目の方法は
遺言書による方法である。
相続における遺言書とは、自分が亡くなった後の財産の分配や処分について、自分の意思や想いを書き残した文書のことです。遺言書がある場合、法定相続による相続分よりも優先される。
遺言書には、
Ⅰ自自筆証書遺言は、自分(遺言者)が、遺言の全文、日付、氏名を自分で手書きして、押印をする遺言書です。遺言書の本文はパソコンや代筆で作成できませんが、民法改正によって、平成31年(2019年)1月13日以降、財産目録をパソコンや代筆でも作成できるようになりました。なお、財産目録は、預貯金通帳の写しや不動産(土地・建物)の登記事項証明書などの資料を添付する方法で作成できますが、その場合には、全てのページに署名と押印が必要になります。自筆証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。
(1)自筆証書遺言の長所
作成に費用がかからず、いつでも手軽に書き直せる。
遺言の内容を自分以外に秘密にすることができる。
(2)自筆証書遺言の短所
一定の要件を満たしていないと、遺言が無効になるおそれがある。
遺言書が紛失したり、忘れ去られたりするおそれがある。
遺言書が勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがある。
遺言者の死亡後、遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して、検認の手続が必要になる。
(3)自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言書は、紙とペン、印鑑があれば特別な費用もかからず1人で作成できます。しかし、せっかく遺言書を作成しても、上述のとおり、一定の要件を満たす必要があり不備があると無効になってしまう場合があります。また、自宅で保管している間に、遺言書が改ざん・偽造されたり、紛失したりするおそれもあります。さらには、遺族が遺言書の存在に気がつかないということもあります。
そこで、自筆証書遺言の手軽さなどの利点を生かしつつ、こうした問題を解消するため、自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管する「自筆証書遺言書保管制度」が、令和2(2020)年7月10日からスタートしています。この制度は、全国312か所の法務局で利用することができます(制度が利用できる法務局を「遺言書保管所」といいますが、以下、この記事では単に「法務局」といいます)。この制度の長所は次のようなものです。
自筆証書遺言書保管制度の長所
(1)適切な保管によって紛失や盗難、偽造や改ざんを防げる
法務局で、遺言書の原本と、その画像データが保管されるため、紛失や盗難のおそれがありません。また、法務局で保管するため、偽造や改ざんのおそれもありません。それにより、遺言者の生前の意思が守られます。
(2)無効な遺言書になりにくい
民法が定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて法務局職員が確認するため、外形的なチェックが受けられます。ただし、遺言書の有効性を保証するものではありません。
(3)相続人に発見してもらいやすくなる
遺言者が亡くなったときに、あらかじめ指定された方へ遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます。
この通知は、遺言者があらかじめ希望した場合に限り実施されるもので、遺言書保管官(遺言書保管の業務を担っている法務局職員です。)が、遺言者の死亡の事実を確認したときに実施されます。これにより、遺言書が発見されないことを防ぎ、遺言書に沿った遺産相続を行うことができます。
(4)検認手続が不要になる
遺言者が亡くなった後、遺言書(公正証書遺言書を除く。)を開封する際には、偽造や改ざんを防ぐため、家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受ける必要があります。この検認を受けなければ、遺言書に基づく不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができません。しかし、自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要となり、相続人等が速やかに遺言書の内容を実行できます。
自筆証書保管制度
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
自筆証書遺言書を作成する際の注意点は
(1)遺言書の全文、日付、氏名の自書と押印
遺言者本人が、遺言書の本文の全てを自書する。
日付は、遺言書を作成した年月日を具体的に記載する。
遺言者が署名する。
(自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、住民票の記載どおりに署名する)
押印は認印でも問題ありません。
(2)自書によらない財産目録を添付する場合
財産目録は、パソコンで作成した目録や預金通帳や登記事項証明書等のコピーなどを添付する方法でも作成可能です。その場合は各ページに自書による署名と押印が必要です(両面コピーなどの場合は両面に署名・押印が必要です。)。
自書によらない財産目録は、本文が記載された用紙とは別の用紙で作成する。
(3)書き間違った場合の変更・追加
遺言書を変更する場合には、従前の記載に二重線を引き、訂正のための押印が必要です。また、適宜の場所に変更場所の指示、変更した旨、署名が必要です。
自筆証書遺言書保管制度を利用する際の注意点は
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、遺言書の様式が決まっているので、決められた様式で遺言書を作成する必要があります。
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合の様式
用紙はA4サイズ、裏面には何も記載しない。
上側5ミリメートル、下側10ミリメートル、左側20ミリメートル、右側5ミリメートルの余白を確保する。
遺言書本文、財産目録には、各ページに通し番号でページ番号を記載する。
複数ページでも綴じ合わせない。
自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けるには
(1)管轄の法務局を選ぶ
自筆証書遺言書保管制度を利用できる法務局は、全国に312か所あります。その中から、次のいずれかを管轄する法務局で申請手続をします。
遺言者の住所地
遺言者の本籍地
遺言者が所有する不動産所在地
関連リンク
全国の遺言書保管所一覧
https://www.moj.go.jp/MINJI/07.html
(2)申請書を記入する
法務局への保管申請は、申請書を提出して行います。申請書は、
法務省ウェブサイト
https://www.moj.go.jp/MINJI/07.html
でダウンロードできます。また、最寄りの法務局の窓口でも入手できます。
申請書には、遺言者の氏名、生年月日、住所などのほか、遺産を受け取る人(受遺者)の氏名や住所などを記載します。
また、遺言者が亡くなった時に、遺言者があらかじめ指定した方に対して、通知を希望する場合は、申請書のうち、「死亡時の通知の対象者欄」にチェックを入れて、必要事項を記載すると、通知が実施されます。
(3)事前予約をする
法務局で行う手続は、事前予約制です。スムーズに手続をするために、必ず予約専用ウェブサイト、電話または窓口であらかじめ予約する必要があります。
ウェブサイトで予約
法務局手続案内予約サービスの専用ウェブサイト
https://www.legal-ab.moj.go.jp/houmu.home-t/
【受付時間】365日・24時間いつでも予約可能
電話または窓口で予約
法務局・地方法務局所在地一覧
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji10.html
【受付時間】平日8:30~17:15(土・日・祝日・年末年始を除く。)
自筆証書遺言書保管制度で、相続人等は何ができる。
遺言者が亡くなると、相続が開始します。遺言者が自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合、相続人等は、法務局で主に次の手続ができます。なお、これらの手続は、遺言者が亡くなった後(相続開始後)でなければ、行うことができません。
(1)遺言書が預けられているか確認する
相続が開始されると、相続人等は、自分が相続人等になっている特定の遺言者の遺言書が保管されているかどうかの証明書(遺言書保管事実証明書)を取得できます。
(2)遺言書の写しを取得する
自分を相続人等とする遺言書が保管されているというが遺言書保管事実証明書で確認ができた場合に、遺言書の写し(遺言書情報証明書)を取得できます。この証明書があれば、不動産の相続登記や各種手続に利用できます。家庭裁判所での検認の必要はありません。 また、相続人等の一人が、この証明書を取得した場合には、他の相続人等へ、遺言書が保管されている旨の通知が法務局から送られます。
公正証書遺言

Ⅱ公正証書遺言は、公正役場で証人2人以上の立会いの下、遺言者が遺言の趣旨を公証人に述べて、公証人の筆記により作成してもらう遺言書です。遺言書の原本は、公証役場で保管されます。
公正証書遺言の長所・短所は、次のとおりです。
(1)公正証書遺言の長所
法律知識がなくても、公証人という法律の専門家が遺言書作成を手がけてくれるので、遺言書が無効になる可能性が低い。
勝手に書き換えられたり、捨てられたり、隠されたりするおそれがない。
家庭裁判所での検認の手続が不要。
(2)公正証書遺言の短所
証人2人が必要。
費用や手間がかかる(遺言書の作成費用は、目的の価額に応じて設定されます)。

Ⅲ秘密証書遺言
遺言の内容を秘密にする方法です。
遺言書を秘密に保管するために、封を施された遺言書の封筒の中に、遺言書が入っていることを公正証書の手続きで証明する方法です。
1.長所
(a)遺言の内容を秘密にしておきながら、自筆証書遺言の問題である偽造・変造などが防げます。
2.短所
(a)公証人が作成するのは遺言書の封紙面だけなので、内容に関する不安が残ります。
(b)公証役場には、遺言書の封紙の控えだけが保管されるだけなので、隠とくや破棄などの危険性があります。
(c)家庭裁判所の検認をうける必要があります。
(d)2名以上の証人の立会が必要です。
3.作成するにあたってのご注意
(a)遺言者は署名捺印した遺言書を封筒に入れ、遺言書で用いた印章で封印します。
(b)封印した遺言書を公証人に提出し、遺言者は証人2人以上の立会いのもと、自己の遺言書であること、その筆記した人の氏名、住所を申述します。 そのあとで、公証人が提出日付と申述の旨を封筒に記載し署名捺印します。これに、遺言者と証人が署名捺印します。
(c)封筒の中の遺言書は、氏名以外は他人に書いてもらっても、またワープロなどを使ってもかまいません。 また、秘密証書遺言としての方式に欠けていても、自筆証書遺言としての要件を備えてあれば、自筆証書遺言として有効とされます。
の3種類があり、それぞれ作成方法や長所・短所が異なります。遺言書を作成する際には、一定の要件を満たす必要がある。また、遺言書の内容を変更したり、撤回したりすることもできる。
遺言書には、相続に関することだけでなく、財産処分に関することや身分に関することなど、さまざまな事項を指定できる。
遺言書を作成することで、自分の意思を確実に伝えるとともに、相続人や第三者とのトラブルを防ぐことができる。