202X年 ある日の行政書士 第11話
ドアが開いて、老紳士がオルガの事務所に入って来た。
「先日は大変失礼しました。」オルガは老紳士に丁寧にお辞儀をした。
「いや、連絡もしないで、突然、お伺いして申し訳ありませんでした。」老紳士はピョコンと頭下げ、オルガに名刺を差し出した。
「このビルに入居しているんですか?」オルガは名刺を見て驚いた表情を見せた。
「実は、私、このビルの中にある貿易会社の代表しております。」来客は応対用テーブルに腰を降ろした。と、接客用ロボットがやって来て来客の傍らに止まった。老紳士は日本茶の湯呑を取った。
「実は、私は心臓のほうが少し具合悪いのです。」老紳士は腕にはめているウェラブルPCに表示された心電図を見ながら言った。
「相続関係ですか?」隆が脇から口を挟んだ。
「そうです。息子のできが悪くて。私の財産をあてにしているらしいんです。私が死んだら、残された財産を巡って残された子供間で争いが起こるんじゃないかと。よい方法はないかと思ってお伺いしたわけなんです。」老紳士は顔を曇らせた。
「遺言書は作成なさいましたか?」隆は確認するように言った。
「自筆証書遺言は作成し、法務局に保管して貰っています。遺言は誰にも知られたくないので公正証書遺言は作成しませんでした。」老紳士は事務的な口調で言った。
「じゃ、相続に関しては問題ないように思われますが。」隆は言葉を継いだ。
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