小説 田舎行政書士 第15話
江尻様
お世話になっております。小川です。
交付送達についてご教示いただきありがとうございます。
ブログも拝読させていただきました。
また公正証書案のご送付もありがとうございます。
夫と確認次第、再度ご連絡いたします。
よろしくお願いいたします。
小川
公証人が訂正した公正証書案を依頼者に転送すると、早速、依頼人より返信があった。
訂正案で、再度、依頼者は夫と協議するらしい。公正証書による強制執行についてのブログを読んでくれたらしい。これで、ひとまず安心である。トラブルの芽は摘み取った。
依頼者の返信文に「教示」という表現があったことに、江尻は驚かせられた。
「教示」という表現は、役所言葉であり、一般的には、あまり使われないからである。
ひょっとしたら、小川 洋子は役所勤務の経験があるのかもしれなかった。
依頼者は、会社社長の秘書ではないかという江尻の想像は誤っていたのかもしれない。小川 洋子の正体に対する疑惑が江尻の心の中でひろがった。
公証人が訂正した公正証書案に小川 洋子と夫が同意すれば、いよいよ、離婚業務も大詰めだ。しかし、同意しなければ、離婚業務は終了となり、いままでの江尻の苦労は徒労になる。
同意後の面談日程の調整もそう簡単ではないのである。
「おそらく、公証人は日程を強引に決定しようとするだろう。」そう江尻は心の中で呟くと顔を曇らせた。
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