小説 田舎行政書士 離婚業務第6話
江尻は、自分の作成した離婚協議書案を改めて読んだ。何の変哲もない離婚協議書案だった。
しかし、この離婚協議書から人生の秘密を読み取ることができる人は少ないだろう。
(年金分割)
第7条
甲(第2号改定者)及び乙(第3号改定者)は厚生労働大臣に対し、厚生年金分割の対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とするとする旨合意し、乙は、離婚届提出後、2箇月以内に厚生労働大臣に対し、合意内容を記載した公正証書の謄本を提出して当該請求を行うこととする。
甲(昭和 年 月 日生)(基礎年金番号 )
乙(昭和 年 月 日生)(基礎年金番号 )
「どうして、依頼者は、年金分割のことを知っていたのだろうか? 一般人は、年金分割ことなど知っているはずもないはずだ。」年金分割の条文を読みながら、そんな疑念が江尻の心の中に沸き上がった。
依頼者は、離婚に当たって、かなり勉強したことは明らかだ。慰謝料のことについても、自信を持って答えている。
「ひょっとしたら、依頼人は法律に詳しいのかもしれない。」江尻は自宅の庭を見ながら、ふと思った。
離婚される夫も会社の役員しているくらいだからそれなりの人間であることは間違いない。少なくとも依頼人から追い出されるような人間ではないはずだ。
「どうして?」
いや、そんなことは俺には全く関係ない。江尻は沸き上がる疑念を打ち消した。
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