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小説 田舎行政書士 第5話

小説 田舎行政書士 離婚業務第5話
離婚協議書が出来上がった。出来上がったものは、定番であると言えなくもない。
だだ、依頼人が希望している現在の住居に住み続けたという希望を離婚協議書にどのようにして盛り込むかということで少し悩んだ。
依頼人は現在の住居に住み続けたいと望んでいるばかりか、長男に生前贈与することを望んでいる。これでは、依頼人の夫が家から追い出されることを意味する。
そこで、離婚される夫の立場も考えて、含みを残す表現にすることにしたのだが、離婚協議書を公正証書にする際、公証人があいまいな表現を認めるかどうかであるが、おそらく認めないだろう。
「全然駄目だね。これは。」ということで訂正を要求するだろう。それはそれで仕方がない。公正証書を作成するのは、公証人なのだから。江尻は腹をくくらざるを得なかった。
この離婚協議で離婚合意達するかどうかは不明だが、とにかく、出来上がった離婚協議書をメールで依頼人に送ることにした。
「ひょっとしたら、依頼人が現在住んでいる住居は名義は依頼人の夫ものであるが、実態は裕福な依頼人の実家が資金を用意してくれたものなのかもしれない。」江尻はふと思った。
「この離婚の実態は、依頼人が夫に見切りをつけ捨て去ることなのかもしれない。そんな妻に嫌気がして夫が別居したのだろう。夫には、おそらく、恋人がいるはずだ。夫の不倫なので、当然慰謝料は発生する。美貌もあり頭がよいやり手の依頼人からすれば、離婚は、新しい人生を始めるための単なる儀式なのかもしれない。」そんな思いが江尻の心の中に沸き上がった。
「この離婚協議は成立するな。」江尻は心の中で呟くと、メールの送信ボタンを押した。

2019/12/11