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小説 田舎行政書士

小説 田舎行政書士
公証役場のドアをノックすると
「どうぞ。」という女性の声がした。
江尻は恐る恐るドアを開けて部屋に入った。
「先ほど、電話した江尻ですが。」江尻は開口一番言った。
「江尻先生ですか。」女子事務職員が丁寧にお辞儀をした。
「忙しいんだ。電話で予約を取ってから来てほしい。」窓際の大きな机に構えている公証人が言った。
どうやら、女子事務員は江尻の来訪を公証人に伝えていなかったらしい。江尻が公証役場に電話したときは公証人は出かけていて不在だった。おそらく、近くにある法務局に行っていたのだろう。
「すいません。」江尻は、ぴょこんとお辞儀をした。言い訳しても仕方がないからである。
しばらくして、公証人が不機嫌な顔して、狭いカウンターにいる江尻のところやって来て対面のカウンター席に座った。
「気になるところがあるんですが。」江尻は離婚協議書案を公証人に差し出した。
(居住家屋)
第6条
甲が所有する下記記載の物件につき、離婚後は乙が居住するものとし、甲は、丙に生前 贈与するものとする。
2 本物件に係る租税公課その他一切の費用は甲が負担する。
不動産表示
所在 いわき市〇〇丘三丁目五番地壱八 家屋番号 〇番壱八 種類 居宅 構造 木造セメント瓦葺 二階建 床面積 一階 七八・弐五平方メートル 二階 五弐・壱七平方メートル m2当 金 五万四千円 価格 金 七、〇四弐、六八〇円
江尻は気になる離婚協議書案の条文を読み始めた。
「何、これ。全くダメだなこれは。」
公証人が渋い表情をした。
「まず、居住だがね。何時まで居住できるのかどうか決定しておかないとね。これでは、あとあとトラブルになるよ。それから、生前贈与は何時するんだ。これもトラブルの原因。それからね。一切の費用は何?これもトラブルの原因。あとは、問題なし。」公証人は手厳しく言った。
おそらく、公証人は江尻と頻繁に会っているせいで、気心が知れているということで気やすく言ったのだろう。
公証人に手厳しく間違いを指摘され、暗い気持ちで外へ出ると、猛暑だった。江尻の体から一斉に汗が噴き出した。

2019/11/15