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行政書士が解説する自筆遺言証書の書き方

行政書士が解説する自筆遺言証書の書き方
令和2年7月10日(金)から、法務局において自筆証書遺言の保管が開始されることになる。
問題は、法務局では、日付等の形式的要件さえ整っていれば、自筆遺言証書を保管してくれるが、内容が適正であるかどうかまでは確認してはくれない。
遺言した人が死亡し、自筆遺言証書を確認したら、遺言書として不適当ということになりかねない。
実際、素人が自筆遺言証書を作成したら、殆どのものは、遺言書として不適当なのではないだろうか?
以下に不適等な自筆遺言証書の事例を挙げておく。
△住所で不動産を特定してしまったケース
私が所有する横浜市西区北幸1ー2-3の自宅は、長男〇〇へ相続させます。
不動産を特定する場合は、登記簿謄本に書かれた地番と家屋番号でしなければいけません。分譲地で複数棟を新築販売するような場合には、お隣とまったく同じ住所という場合も世の中にはありえます。不動産を特定する場合には、住所ではなく不動産登記簿のとおり記載しなければいけません。
ただし、遺言全体の解釈等によっては法務局の判断により、相続登記が受理される可能性もある。
×建物を記載しなかったケース
私が所有している東京都台東区上町1丁目123番の土地は長男○○が、東京都台東区本町3丁目543番の土地は次男が、それぞれ相続してください。
後のことは仲良く二人でやってください。
地番で土地を特定していますが、建物のことが書かれていません。残念ながらこの遺言の内容では、土地の相続登記はできても建物の相続登記はすることができませんので、建物については別途遺産分割協議が必要となる。
×「託す」と書いてしまったケース
私が所有する東京都練馬区中通1丁目2番3の土地と、東京都練馬区中通1丁目2番3の建物は長男○○へ託します。
託すというのは、物をあげたり相続させたりするような意味合いではありません。残念ながら「託す」という表現では相続登記に使うことができない。
×「管理させる」と書いてしまったケース
私が所有する東京都板橋区山岡町1丁目2番3の土地と、同所の家屋番号2番3のアパートについては、長男○○へ管理させる。
管理させるというのは、物をあげたり相続させたりするような意味合いではありません。残念ながら「管理させる」という表現では相続登記に使うことができない。
△割合の指定がないケース
私の自宅(神奈川県相模原市本町1丁目2番3号の土地と建物)については、長男〇〇と次男□□の二人へ相続させます。仲良く二人で守っていってください。
長男と次男へ相続させる意図は伝わりますが、どれくらいの割合かまでは書かれていません。この場合は、民法250条の推定により、各2分の1の登記をすれば差し支えないものと思われますが、法務局への事前相談が必要である。
×普通預金だけ書いて定期預金に触れなかったケース
私名義の下記口座については、長男〇〇へ相続させます。
□□銀行△△支店 普通口座 1234567
同一金融機関に普通預金と定期預金の双方を預託しているのであれば、両方を記載しなければいけません。この事例では、普通預金は長男のものとなりますが、定期預金については記載漏れのため遺産分割が必要となる。
△「遺贈」と書いてしまったケース
私の自宅(神奈川県相模原市本町1丁目2番3号の土地と建物)については、長男〇〇へ遺贈させます。
たとえ相続人に対してであっても「遺贈」と書いてしまった場合には相続登記ではなく遺贈登記となってしまいます。遺贈登記となってしまうと原則として相続人全員を登記義務者としなければいけない(相続人全員の実印と印鑑証明書が必要)。
×感謝や思い・気持ちしか書かれていないケース
私はみんなの支えがあって今まで生きてこられました。感謝の気持ちを込めてお手紙を書こうと思います。長女の〇〇には、色々と身の回りの世話を任せて苦労をかけさせてしまったね。長男△△と□□ちゃんは、よく病院へ来てお花を持ってきてくれてとても嬉しかったです。次男の◇◇は・・・・・
遺言書は財産承継について書くものです。自分の思いや気持ちを書きたくなる気持ちもわかりますが、せっかく残す遺言であれば、財産のことを書かなければ意味がない。
遺言書の失敗事例集
遺言書は文言だけでなく、全体的に見て適法かつ適切な内容でなければならない。
×については問題が大きくて、△については対応策があるケースである。
△記載なく財産について書かれていないケース
遺言書
私の自宅(神奈川県横須賀市村上町1丁目2番3号の土地と建物)については、長男〇〇へ相続させます。
また、私名義の下記口座については、長女〇〇へ相続させます。
□□銀行△△支店 普通口座 1234567
平成〇年〇月〇日
遺言 太郎 印
一見すると問題がなさそうな遺言書ですが、これだと自宅と普通預金しか書かれていません。これ以外については、結局は遺産分割をしなければいけませんので、この遺言だけで完全な承継先の指定ができたとはいえません。
遺言書には、「本遺言書に記載なき財産については〇〇へ相続させる。」のように、包括的に漏れなく指定しておくべきである。
△愛人へ遺贈したが遺言執行者の指定がないケース
遺言書
私は預貯金や株式、自宅、アパート等の全ての財産を、私が愛する〇〇 〇〇子へ遺贈します。
子供たちには財産を残すことができず大変申し訳なかったが、私の気持ちを理解してくれ。
平成〇年〇月〇日
遺言 太郎 印
相続人以外へ財産を承継させる場合には「相続」ではなく「遺贈」という文言を使います。この点については問題はありませんが、遺贈となると不動産の名義変更の際に、相続人全員の協力が必要となってしまいます。相続人全員が協力してくれれば問題はないのでしょうが愛人へ全財産を遺贈した場合にはそれが難しいことは容易に想像できます。
本件のような場合には、遺言執行者を遺言書の中で指定しておくべきでした(もちろん受遺者本人を遺言執行者にしてもいい)。このようなケースの場合には、仕方ないので家庭裁判所へ遺言執行者の選任申立てをするしかないと思われる。
また、遺留分の問題にもなりえますので、その点からしても問題が多い遺言書と言わざるを得ない。
×私道について書かれていないケース
遺言書
私名義の下記不動産については、長男〇〇へ相続させる。

(1)土地
 所 在  横浜市戸塚区〇〇
 地 番  10番20
  地 目  宅地
  地 積  123.45㎡
(2)建物
  所 在  横浜市戸塚区〇〇10番地20
家屋番号 10番20
  種 類  居宅
  構 造  木造セメント瓦葺2階建
床 面 積  1階 50.12㎡ 2階 45.67㎡

長男には世話になった。この家は、長男に譲り渡すこととし、これからも守り続けてほしいと思う。
平成〇年〇月〇日
遺言 太郎 印
これも内容には問題がなさそうです。土地と建物についても登記簿謄本のとおり書かれており、全く相続登記には不都合はない。
しかし、この事例では、実は土地と建物以外にも、前面道路の私道持分5分の1も所有していたのです。しかも、この私道を抜けないと公道へ出ることができない土地だったため、この私道を取得しなければ建物の再建築も認めらない。
つまり、土地と建物を長男が取得できたとしても私道がなければ家を建てることも土地を売ることもできない状況になってしまうのだ。
預貯金等について触れられていないことも問題だったのですが、このケースでは仕方ないので他の相続人全員と遺産分割協議をやっていただき、遺産分割協議をもとに相続手続きを行うことになりました。
最後に
自筆証書遺言は実務上ほとんど不備がある
もしこれから遺言書を書こうと考えているならば是非とも公正証書遺言で作成されることを強くお勧めしたい。
自分なりに作った遺言で、まず完璧な自筆証書遺言はありえないからだ。

2019/11/5