小説 田舎行政書士
「罹災証明の方ですか?」
「住居が被災したんですね。」壊れたテープレコーダーのように繰り返し繰り返し言った。
「親切だね。ありがとう。」という人もいる。被災証明申請書には既に公印が押してある。即日に証明書を発行するためだ。
被災証明書を持ち帰って家で書きたいという来客に危うく公印の押した被災証明書のコピーを手渡しそうになった。
「消毒薬は何処で手に入るんですか?」想定外の質問だった。機転を利かしてコールセンターの電話番号を教えた。
「被災証明って何の役に立つの?」
「まだ、はっきりとはしていないんですよ。」苦しい回答を何度もした。
「え! 床上3mですか?」驚きの声を上げることもしばしばだった。
「写真は持参しましたか?」
「携帯に写真があるんですが。」
「じゃ、だいじょうぶです。携帯の写真を見せてください。」
最後の言葉を言い終え、ホッする暇もなく、次の来客が椅子に座った。
江尻 一夫行政書士事務所
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