小説 田舎行政書士
10連休明けの整形外科医院は患者で混雑していた。待合室は座る席もない。
待合室の壁掛け時計の針は午後6時をさしている。
実は、江尻は、クライントに依頼されて任意保険での治療期間の延長交渉のために、整形外科に同行したのである。
昨日、クライアントは、任意保険での治療の打ち切りを言い渡されたらしい。クライアントは治療を開始して丁度3か月目だった。
おそらく、保険会社が整形外科医院に圧力をかけたのただろう。
「何と、医者に言えばいいですか?」クライアントは不安げに隣に座っている江尻に言った。
「とにかく、首の痛みが取れないことを医者に言ってください。私が医者に話しますから。」江尻はクライアントを安心させるように言った。
「もう6時ですね。こんなこと、私初めてです。」江尻の言葉に安心したのか、クライアントは隣の席の女性患者に親しげに話かけた。
午後7時近く、クライアントは診察のために、受付から名前を呼ばれた。
クライアントと一緒に診察室に入った。優しい感じの医者だった。
「真面目にリハビリ治療を受けていますね。」医者は診察用のパソコン端末を見ながら言った。
「先生、病状固定の状態と判断しているんですか?」江尻は話を切り出した。
「う~ん。」医者は唸った。
「普通、頚椎の骨折がない場合、3週間程度の治療が一般的ですが・・ 3か月も治療すれば・・・」医者は自信なさげに言った。
「実は、後遺症認定被害者請求を考えているんです。最低でも6か月治療期間がないと後遺症の認定はされないんです。」江尻は畳掛けるように言った。
「3カ月の治療でも認定されます。」医者は反論した。
「先生は、病状固定と考えているんですか。」江尻は再び確認するように言った。
「実は、保険会社から「どんな治療しているんですか?」と言われてね。僕も困っているんだよ。治療期間をダラダラ延長してもね。」医者は本音を言った。
「保険会社の言うことなんか突っぱねればいいです。」江尻は語気を強めた。
「そんなこと言われてもね。」医者は弱り切った表情をした。
「後遺症の認定を得るためには、最低でも6か月の治療期間が
必要なんです。お願いします。」江尻は頭を下げた。
「じゃ、1か月だけ治療を延長しましょう。 4か月も6か月もさほど変わりがないはずだ。1か月だけだよ。」医者は念を押すように言った。
「じゃ、1か月治療を延長すると言うことで・・・」江尻は頷いた。
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